デリヘルの営業では従業員名簿が必要!記載内容や保存期間、その他注意点を解説

デリヘル営業で必要な従業員名簿とは

デリヘルの営業をする場合、風営法に従わなければなりません。そのため、開業時には許可が必要であったり、その後事業に関して重要な変更があった際にも手続が必要になったりします。

色々なルールが同法に定められていますが、ここでは特に従業員名簿に関して説明していきます。従業員を雇って営業する場合に必ず求められるものですが、この名簿に関して違反をしてしまっている例は多くあります。違反の仕方によっては営業停止を命じられてしまうこともありますので、細かなルールにも配慮しこの名簿を備えるようにしましょう。

風営法上の従業者名簿のこと

一般には「従業員名簿」などと呼ばれることも多いですが、風営法においては「従業者名簿」が正しい名称となります。

そして同法に言う従業者名簿では、直接雇用関係にある従業員だけでなく業務委託などをしている場合には、その業務委託者なども含まれますので注意が必要です。

なぜこのような名簿が求められるのかと言うと、何か違法な行為をしていないかどうか、違法な状態となっていないかどうかを監督する必要があるからです。そもそもこの法律には「善良の風俗、清浄な風俗環境の保持」「少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止」「風俗営業の健全化」などの目的があり、これを果たすために営業時間の制限であったり営業区域の制限であったりなど具体的にさまざまなルールが定められ、さらに営業者に対する「監督」も必要になってきます。そして、監督をする手段の一つとして従業者名簿の備えが求められているのです。

法律で備えることを義務付けられている

従業者名簿を備えなければいけないということは、同法の条文上にはっきりと書かれています。風営法第36条には、「風俗営業者や店舗型性風俗特殊営業を営む者、無店舗型性風俗特殊営業を営む者、・・・などは、事務所に従業者名簿を備えて所定の事項を記載しないといけない」とあります。

色んな種類の営業者が挙げられていますが、同法第2条ではそれぞれの定義がされています。「風俗営業者」は一般的にキャバクラやホストクラブを経営する者にあたり、「店舗型性風俗特殊営業を営む者」はソープランドなどの経営者、そして「無店舗型性風俗特殊営業を営む者」がデリヘルの経営者に該当します。

よって、このことからデリヘルの営業には従業者名簿の備えが義務付けられているということが言えます。

ただ、ここでもう一つ重要になるのがその記載内容です。同法の36条でも備えさえすれば良いとしているわけではなく、必要な事項を記載した上での備えが必要とされています。次項でその内容についてみていきましょう。

従業員名簿の作成方法

同法36条では従業者の「住所」「氏名」そして「その他内閣府令で定める事項」の記載が必要とされています。具体的にはここで決められていないため内閣府令についても触れていく必要があります。

基本的な記載事項

同法における従業者名簿に関する内閣府令を確認すると、第25条にその記載事項が定められています。

記載が法律上求められている事項をまとめると以下のようになります。

  • 住所
  • 氏名
  • 性別
  • 生年月日
  • 採用年月日
  • 退職年月日
  • 従事する業務の内容

デリヘル営業では風営法に則った運営をしなければなりませんが、このように同法だけでなく、関連する法律や内閣府令等も確認をしなければいけません。住所と氏名だけを書いただけでは違反をしていると評価されてしまいます。

所定の確認事項に関する書類

従業者名簿に関して注意すべき重要なことがあります。

それは従業員に対する「生年月日」の確認と、次項で説明する「労働者名簿」との兼合いです。従業者名簿を備えるための確認というわけではありませんが、名簿にも生年月日は記載しますし、実際の運用上名簿とともに確認したことの記録も保存することになるためこのあたりのルールもよく理解して営業していかなければなりません。

同法36条の2にその定めがあります。嚙み砕いて言うと以下のようになります。

「デリヘル営業者は従業員について、生年月日・国籍等を、内閣府令で定める書類によって確認しなければならない。その確認をしたとき、確認したことの記録を作成し、これを保存しないといけない。」

内閣府令には具体的な確認書類として、日本国籍を有する者の場合だと「本籍が記載された住民票の写し」「パスポート」などが挙げられています。日本国籍でない者に関しては「在留カード」や「特別永住者証明書」などの確認が必要である旨定められています。

そのため、従業員を雇ったときには従業者名簿に上記の事項を記載するとともに、その者の生年月日と国籍をパスポートなどから確認し、確認した次項および確認した年月日を記録しなければなりません。従業者名簿とともにこの記録も保存していくことになります。

ここで注意したいのは確認書類です。本籍地が記載されていないと同法における確認書類としての要件を満たさないため認められません。

労基法上の労働者名簿と兼ねるには

次に「労働者名簿」ですが、こちらは風営法ではなく労基法上求められる名簿です。しかしながらこれらの名簿は用途を兼ねることが許されますので、効率的な運用をする上でも両方の要件を満たすように一つの名簿を作成すると良いでしょう。

労基法上は、以下の事項の記載が必要とされます。

  • 住所
  • 氏名
  • 性別
  • 生年月日
  • 雇用年月日
  • 退職年月日とその理由
  • 従事する業務の内容
  • 履歴
  • 死亡年月日とその原因

「履歴」と「死亡年月日とその原因」の記載が余分に必要になりますが、風営法上の従業者名簿にこれらの事項を追加すれば労基法上の労働者名簿として保管することもできるようになるため、こちらの事項も記載して保存するようにしましょう。

従業員名簿の保存について

必要な事項が記載できれば、次に適切な保存をしていきます。重要なのは保存の「期間」と「場所」です。

期間

保存期間についてはかつて3年間と定められていましたが、現在では5年間保存することが定められています。

ただし「当面の経過措置」として3年間の保存で良いとも定められており、2020年現段階においてはまだ3年間の保存をするという認識でも問題ありません。

「当面」がいつまでを指しているのかは明らかにされていませんが、いつか保存期間が長くなるかもしれないと意識しておくといいでしょう。

なお、従業者名簿にはすでに退職をしている者に関する情報も載せる必要があります。そのためすでに退職してもすぐに情報を削除せず、しばらく残しておかなければなりません。

場所

保存場所についても指定があります。大きな組織だと総務部・経理部等を構える本部に一括で保管したいと考えるかもしれませんが、法律上、事業場単位での保管が求められています。

これは風営法の目的を果たすために必要な監督を実現するためです。警察が見回りにやってきた際、その場で従業者名簿が確認できなければ意味がありませんので、事業場ごとに備え置いておき、すぐに提出できるようにしておきましょう。

紙としての保存までは指定されていませんので、データとして残しておいて、すぐにアクセスできる状態にしておいてもいいでしょう。

従業員名簿に関する罰則

従業者名簿に関するルール違反があった場合の罰則規定も設けられています。

同法の53条には、「従業者名簿を備えていない」「必要な記載をしていない」「虚偽の記載をした」場合には、100万円以下の罰金を科すことが明記されています。こちらは刑事罰ですので、有罪となれば前科が残りますし、その後の営業にも影響を及ぼすことになるでしょう。請求自体が大きな痛手にならなかったとしても様々な方面に影響が出てしまうことが予想されますので違反のないよう十分に注意しなければなりません。

また、行政処分も予定されています。10日以上80日以下の営業停止です。前述の刑事的処罰に関しては営業者・経営者個人に対する処分ですが、こちらはお店に対する処分です。軽微な違反ですぐに営業停止が命じられることは通常ありませんが、何度も繰り返しており、悪質な違反をしているような場合だとこの命令をされる可能性もあるでしょう。

また、風営法では法令に違反した場合の一般的な処分として「指示処分」も定められています。こちらは基本的に支持を受けるだけですので罰金を支払ったり営業に制限がかけられたりといったことはありません。営業停止を命じられる前にはこの指示処分を経ることが予想されますので、この時点でミスに気が付くことができたなら、すぐに是正するようにしましょう。