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職務質問とはどのようなものなのか?
職務質問とは
職務質問とは、何か犯罪を犯していそうだ、悪いことをしそうだ、犯罪について何か知っていそうだ、というように警察官が判断できるような人を、立ち止まらせて質問することをいいます。
道路を普通に歩いているだけ、自転車で走行していただけなのに、警察官から呼び止められて何をしているのかなどの質問をされたという経験のある方は意外と多いのではないのでしょうか?
今回は、警察官による職務質問とはどのようなものなのか、職務質問に関連した問題にはどのようなものがあるのかという点について解説します。
行政警察活動と司法警察活動
そもそも、警察官の活動は、司法警察活動と行政警察活動に区別することができます。司法警察活動とは、具体的な犯罪発生が明確な場合に、その犯罪の捜査を目的とする警察活動です。それに対して、行政警察活動とは、犯罪の予防や鎮圧を目的として広く行われる警察活動のことを指します。
簡単にいうと、犯罪が発生して犯人を捕まえるため、犯行の証拠を固めるための活動が司法警察活動で、これから犯罪などが起こらないように取り締まりなどをする活動が行政警察活動です。
司法警察活動 | 犯罪の捜査を目的とする警察活動 |
行政警察活動 | 犯罪の予防や鎮圧を目的とする警察活動 |
職務質問は行政警察活動
職務質問は、基本的には行政警察活動に分類されるものです。ただし、たとえば、強盗現場から犯人が逃走して間もないタイミングで周辺地域を警察官が巡回し、犯人と思しき人を探すために通行人などに声をかける活動も職務質問のように思えるかもしれません。しかし、これはあくまでも実際に発生した具体的な犯罪行為を前提としているものなので、どちらかと言えば司法警察活動に分類します。
このページでは、純粋な行政警察活動としての職務質問について解説します。
職務質問の法的な根拠について
行政警察活動としての職務質問は、以下のように警察官職務執行法第2条で定められています。
警察官職務執行法第2条第1項
警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。
第3項 前2項に規定する者は、刑事訴訟法に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。
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職務質問の要件~不審事由について~
警察官職務執行法第2条第1項では、いわゆる「不審事由」について規定されています。何か犯罪を犯していそうだ、悪いことをしそうだ、犯罪について何か知っていそうだ、というように警察官が判断できるような人を、立ち止まらせて質問することができるとされています。
もちろん、警察官の偏見によって「不審事由がありそうだ」と判断できるのでは足りません。あくまでも、さまざまな事情を客観的に考慮した上で、合理的な見地から「不審事由がある」と判断できる場合でなければ、職務質問を合法的に行うことはできません。
①強制処分になってはいけない
職務質問とは、人を「停止させて質問をする」という行為で、特徴的な警察活動です。警察官によって呼び止められるまではその人の思うがままに通行などをしていたところ、その通行を引き留める、つまり、一般人の行動に一定の制限・介入を行うものです。つまり、たとえ不審事由が認められるような場合であったとしても、このような介入行為が当たり前のように行われることは許されるべきではありません。この点について規定しているのが、警察官職務執行法第2条第3項です。
呼び止めや質問、警察署へと連れて行く行為は、あくまでも職務質問をされている人の「任意」で行われなければいけません。無理矢理連れて行ったりするには、あくまでも刑事訴訟法の手続きによるもの、つまり、各種令状の発行をしなければ許されないということです。
刑事訴訟法では、警察官による行動が人の利益を害する程度が大きいと判断される場合については、これらの行為を「強制処分」といいます。たとえば、逮捕とは、国家権力によって人の身体の自由、移動の自由などを完全に奪うものです。この利益侵害が当然のように行われてしまうと、警察官の行動によっては、人の利益が不当に侵害されるおそれがありますよね。
このようなリスクを回避するために、原則として逮捕行為を行う場合には(現行犯逮捕、緊急逮捕は例外的に認められるものです。)、事前に裁判官に「今回の逮捕行為は正当なものであるのか」という判断をしてもらうために、令状の発付を受けなければいけないとされています。同じく、捜索差押え手続きに関しても同様のことが言えるため、令状が必要と考えられています。
職務質問については、令状が必要であるという規定は一切ありません。これは裏を返していえば、令状が必要な強制処分にあたるような態様では、職務質問は行うことができないということを意味しています。たとえば、通行している人の腕をいきなり掴んで、身体の自由を奪った上で職務質問を行うということは、逮捕行為にあたると考えられますので、許されません。
②任意処分としてどこまで許されるのか
先程ご説明したように、職務質問は強制処分に値する態様で行うことは許されません。刑事訴訟法上、強制処分に至らない行動は「任意処分」と言われます。つまり、職務質問は、任意処分として許される限りで行わなければならないのです。ただし、ここで、「任意」というフレーズが出てきますが、刑事訴訟法上、この表現には注意をしなければいけません。
日常的に「任意」と表現する場合、私たちが自ら進んで、状況を受け入れ、納得した上で、というような意味合いとなります。警察官からの呼び止めに対して自ら応じる場合がまさに、私たちが一般的にイメージする「任意」というものでしょう。
しかし、警察官の呼び止めに対して、全ての人がすぐに快く応じてくれるわけではありません。逆に、対象者が素直に応じるような場面だけに任意処分としての職務質問を限定してしまっては、これから起こりそうな犯罪行為などを充分に取り締まることはできないでしょう。更に言えば、悪いことをしている人であれば、警察官の呼び止めに応じることを嫌がるとも考えられます。
つまり、任意処分としての職務質問をより実効性のあるものとするためには、ある程度、私たちが想定する「任意」よりも幅をもたせた範囲まで、警察官の行動を許してあげる必要があるのです。
そこで、どのような職務質問の態様までが「任意処分」として適法と認められるのかが問題となります。これについては、具体的な判例事案に沿って、以下で項を改めて紹介していきたいと思います。
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違法な職務質問とは?任意処分として許容される範囲について
最決昭和29年7月15日
この事例では、職務質問のために、警察官が対象者に声をかけたところ、対象者が逃走を図ったことから警察官がこれを追いかけ、背後から手をかけた点が争点となりました。「任意」処分であることを素直に捉えれば、警察官が対象者に「手をかけて」行動の自由を制限するというような有形力の行使が認められないようにも思えるからです。
しかし、判例はこのような有形力の行使も、あくまでも任意処分の範囲として適法であると判断しました。これによって、任意処分としての職務質問であったとしても、ある程度の範囲での有形力の行使は認められたのです。
最決昭和53年9月22日
この事例では、警察官が自動車内にいた人に職務質問を求めたところ、素直に応じなかったため、警察官が窓から手を入れ自動車のエンジンを切った行為が問題とされました。自動車のエンジンを警察官が勝手に切ってしまうというのは、対象者の移動の自由を完全に奪うものですから、任意処分としては行き過ぎとも思えるからです。
この点についても、昭和29年の事案と同様に、任意処分の範囲として許容されるとの判断が下されました。たとえば、エンジンを止めるために人の体を掴んだりすれば問題ですが、本件ではそのような事情はありません。「窓から手を入れてエンジンを切る」程度の有形力の行使ならば、対象者の権利侵害は発生しているが、適法な職務質問の行為態様であると考えることができます。
最決平成6年9月16日
この事例では、先程の事例と同様に、職務質問の対象者が自動車内にいました。職務質問のために停車させたところ、質問中に対象者の行動が不審で、ハンドルを切ったりエンジンをふかしたりなどしたために、警察官がエンジンを切りキーを取り上げました。この行為について、適法性が問われました。
昭和53年の事案とは異なり、警察官がキーを取り上げることまでしています。これによって対象者は、自らの意思のもと自由に自動車で行動することが完全にできなくなってしまい、行動の自由に対する制約はかなり大きいものと考えることができます。しかし、最高裁判所は、本件におけるさまざまな事情を考慮した上で、キーを奪った点については適法であるとの判断を下しています。
たしかに、対象者の権利侵害は大きいものです。しかし他方で、本件の対象者には、幻覚の存在や、周囲の状況を正しく認識する能力が無くなっているという事情がありました。当時の道路状況は、積雪のためスリップなども起こしやすい状況でしたし、その中で自動車を発進させようという挙動さえ見せています。このような事情を考慮した結果、対象者が自動車を運転しないように努めることは、行政警察活動を職責とする警察官にとっては当然のこととも考えられます。
以上の点から、事情を比較衡量した結果、本件職務質問は任意処分として適法であると判断されました。
最決平成6年9月16日
先程と同様の事案の続きとなります。エンジンキーを取り上げた警察官ですが、その後対象者とのやりとりが続いた結果、その現場における身柄拘束時間が約6時間半続くことになりました。警察官が強制採尿令状を得るまでの間、対象者はキーを奪われた状態で、令状の根拠なくしてその場から移動することができなかったのです。この6時間半にも及ぶ拘束行為についても、適法性が問題となりました。
本件では、6時間半現場に拘束した警察官の行為は任意処分としては許されるものではなく、自動車を停止させる行為は良かったのですが、その場に6時間半も留めたのは、あまりに対象者の権利侵害が大きいとの判断がされました。
もちろん、何時間までなら大丈夫、何時間からは違法というように、どんな事案でも通用するような基準を設定することはできません。それぞれの事案ごとに、さまざまな事情を考慮した結果、どこまでの拘束なら許されるのかを判断しなければいけません。
職務質問を断ることはできるの?
以上で述べたように、任意処分という形式の職務質問ですが、ある程度の警察官からのプレッシャーは法律が許容している以上、応じることに従わなければならないようにも思えます。しかし、職務質問をされたタイミングや自分自身に一切身に覚えがないような状況では、職務質問に応じる気が起きないこともあるはずです。このような時、果たして職務質問を断ることはできるのでしょうか?
結論から言えば、職務質問を拒否することは可能です。なぜなら、あくまでも法律上の見解は、令状による強制力のない任意処分でしかないからです。もちろん、対象者の同意がなくてもある程度のアクションが警察官からなされることはあるでしょうが、職務質問に応じる義務が生まれるわけではありません。
ただし、職務質問を対象者が拒絶する可能性もあり、警察官はかなりしつこく応じるように求めてくるはずです。例えば、職務質問の求めを拒絶しながら移動して自宅の中に入ってしまえば、住居区間に侵入されない自由を誰しもが持っているため、令状がなければ警察官も勝手に入ってくることはありません。ですがずっとドアの前に居座るかも知れません。ご自身の身に、職務質問を拒否する理由がないのであれば、素直に従う方がいいでしょう。
まとめ
犯罪行為と無縁な日常を送っていたとしても、職務質問に遭遇することは大いにありえます。また、仮に犯罪を起こしていた場合でも、職務質問としての強制を全てに置いて受け入れなければならないということでもありません。
どこまでの職務質問が適法で、どこからが違法なのかの判断はもろもろの事情を考慮してなされるものです。結果、違法な職務質問を受けて権利侵害が発生した場合には、しっかりと争う必要があります。その際には、専門家である弁護士に依頼をして助言を受けるのが有効です。職務質問によって権利が侵害されたという場合には、弁護士へ相談することをおすすめします。