リミナ
エル
Contents
4種類の逮捕とは?
逮捕は、容疑者(法律用語では被疑者といいます)のことを、強制的に拘束しますので、容疑者の社会生活へ大きな影響を与えるものです。
むやみに逮捕することは、容疑者に対する重大な人権侵害になってしまいます。憲法でも、法律によって定められた手続き以外では、自由を奪われるようなことはできないとされています。
憲法 31条
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
そのため、刑事訴訟法でどのような場合に容疑者を逮捕することができるかが決められており、「通常逮捕」「現行犯逮捕」「準現行犯逮捕」「緊急逮捕」の4種類があります。
4種類の逮捕
- 通常逮捕
- 現行犯逮捕
- 準現行犯逮捕
- 緊急逮捕
リミナ
エル
通常逮捕とは?
通常逮捕とは、事前に裁判官から逮捕状を出してもらい、逮捕状を容疑者に見せた上で逮捕することを言います。原則、逮捕する場合には、この通常逮捕になります。
逮捕状を請求できるのは誰か
逮捕することは容疑者の人権を侵害することにもなりますので、安易な逮捕が行われないように、警察官なら誰でも逮捕状を請求できるというわけではありません。
逮捕状を請求できるのは、捜査機関のなかでも重い責任のある、警部以上の警察官と検察官のみになっています。
逮捕状が発行される条件
警察官(警部以上)や検察官から逮捕状の請求があった場合に、裁判官は逮捕状を発行するかの判断をすることになります。では、裁判官は逮捕状の請求を認めるかどうかを、どのように判断するのでしょうか?
裁判官が逮捕状を発行するのは、「逮捕の理由」と「逮捕の必要」の2つがある場合です。
「逮捕の理由」は、容疑者が犯罪行為をしたことを疑う十分な理由がある場合に認められます。たとえば、AがBのことをナイフで切りつけたところが監視カメラの映像に残っており、Aが傷害罪を犯したことを疑う理由が十分にあるとして、「逮捕の理由」があると判断されることになります。
「逮捕の必要」は、逮捕をして身柄拘束をしなければ、容疑者が逃走したり、証拠隠滅をしたりするおそれがある場合に認められます。これは、容疑者の社会的地位や犯罪行為の内容から判断されます。たとえば、社会的地位が高く家族もいるような人が、軽微な犯罪行為をした場合には、すべてを捨てて逃走などをするおそれはあまりないと思われるので、「逮捕の必要」はないと判断される可能性があります。
刑事訴訟法 199条
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、30万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、2万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
2 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
3 検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。刑事訴訟法 201条
逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない。
通常逮捕はどのように行われるか
逮捕状の請求は、警部以上の警察官と検察官のみしかできませんでしたが、逮捕状が発行されたあとには、警察官など捜査機関であればだれでも逮捕を行うことができます。
逮捕状によって容疑者を逮捕する場合には、逮捕状を提示しなければなりません。
ただし、逮捕状は発行されているものの、それを容疑者に提示する時間的余裕がない場合には、逮捕状を事前に提示せずに逮捕を行う、逮捕状の緊急執行が認められています。
刑事訴訟法 201条
逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない。
2 第73条第3項の規定は、逮捕状により被疑者を逮捕する場合にこれを準用する。刑事訴訟法 73条3項
勾引状又は勾留状を所持しないためこれを示すことができない場合において、急速を要するときは、前二項の規定にかかわらず、被告人に対し公訴事実の要旨及び令状が発せられている旨を告げて、その執行をすることができる。但し、令状は、できる限り速やかにこれを示さなければならない。
リミナ
現行犯逮捕とは?
現行犯逮捕とは、容疑者が犯罪行為を行っていたり、犯罪行為の直後であったりするような現行犯人である場合に、逮捕状なしで逮捕が行われることです。
現行犯逮捕は誰でもできる
現行犯逮捕の条件を満たしていれば、警察官などでなくても、現行犯逮捕をすることができます。
たとえば、痴漢の被害者が、電車内で痴漢の犯人から触られているところを捕まえた場合、スーパーマーケットで商品を万引きして店外に出るところを目撃した場合などには、一般人による現行犯逮捕をすることができます。また、一般人が現行犯逮捕した場合には、すぐに警察などに引き渡すことになっています。
刑事訴訟法 212条
現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。刑事訴訟法 213条
現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。刑事訴訟法 214条
検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない。
現行犯逮捕の条件
現行犯逮捕の場合には逮捕状が不要であり、裁判官の判断はありませんが、通常逮捕と同様に「逮捕の理由」と「逮捕の必要」があることが必要とされています。「逮捕の必要」は、通常逮捕の場合と同じように、逃亡や証拠隠滅のおそれの有無によって判断されます。
現行犯逮捕が逮捕状なしで行われることが許される理由は、現行犯であれば、犯罪行為が行われたことや犯人が明確であり、間違えて逮捕されてしまう可能性が少ないからです。
そのため、「逮捕の理由」があるとされるためには、明らかに犯罪行為があったという「犯罪の明確性」と、逮捕する人が明らかに犯人であるという「犯人の明確性」の2つが必要になります。「犯人の明確性」が認められるためには、犯行から時間や場所があまり離れていないこと(時間的接着性、場所的接着性)が必要となります。
先程例にあげた、痴漢被害者が痴漢の犯人を電車内で捕まえた場合などは、「犯罪の明確性」「犯人の明確性」があるといえます。
リミナ
準現行犯逮捕とは
準現行犯逮捕は、現行犯人そのものではなくても、条件を満たしていれば現行犯人とみなされて、現行犯逮捕と同じように逮捕状なしで逮捕が行われます。
準現行犯逮捕を行うための前提条件
準現行犯逮捕をするためには、後ほど紹介する4つの条件のいずれかにあてはまっていなければなりませんが、前提として「罪を行い終ってから間がないと明らかに認められる」必要があります。
つまり、現行犯逮捕の場合と同様に「犯罪の明確性」と「犯人の明確性」が必要ということになりますが、具体的な条件が別途設定されていることから、ここの判断基準は現行犯逮捕の場合よりも甘くなっています。
準現行犯逮捕の4つの条件
準現行犯逮捕をするための条件は次の4つになります。
- 犯人として追呼されているとき。
- 盗品や犯罪で使われたと思われる凶器を持っているとき。
- 身体や衣服に犯罪の明らかな証跡があるとき。
- 誰何されて逃走しようとするとき。
「犯人として追呼されているとき」とは、犯人として追いかけられていたり、「泥棒!」などと呼ばれていたりする場合などのことを指します。
「盗品や犯罪で使われたと思われる凶器を持っているとき」とは、宝石店から盗まれた大量の貴金属を持っていたり、血のついた包丁を持っていたりする場合のことを指します。
「身体や衣服に犯罪の明らかな証跡があるとき」は、返り血のついた服を着ている場合、コンビニ強盗で防犯用のカラーボールを当てられている場合などがあります。
「誰何されて逃走しようとするとき」とは、職務質問などをした途端に、走って逃げ出したような場合などが考えられます。
刑事訴訟法 212条2項
左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
一 犯人として追呼されているとき。
二 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
三 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
四 誰何されて逃走しようとするとき。
リミナ
エル
緊急逮捕とは?
緊急逮捕とは、重大な罪を犯した疑いが濃厚で、裁判官へ逮捕状の請求をすることができないほど急を要する場合に、逮捕状を請求する前に、容疑者を逮捕して身体拘束することをいいます。
ちなみに、緊急逮捕は、令状主義に反しており憲法違反であるという説もありますが、緊急逮捕は逮捕後に逮捕状が出されなければ、逮捕された人の身柄はすぐに開放され、人権侵害の危険性が少ないことから憲法違反にはならないという考え方が主流となっています。
緊急逮捕をする場合の3条件
緊急逮捕は憲法違反ではないと説明しましたが、逮捕後に裁判官への逮捕状申請が行われることから、通常逮捕と比べると人権侵害の可能性は高くなってしまいます。
そのため、緊急逮捕をするためには、「重大な犯罪である」「充分な理由がある」「緊急性がある」という3つの条件を満たしていなければなりません。
「重大な犯罪」とは、死刑、無期、3年以上の懲役・禁錮にあたる罪のみとなっています。たとえば、殺人罪、傷害罪、強盗罪、窃盗罪、強制わいせつ罪、詐欺罪などが対象となります。
「充分な理由」は、通常逮捕の場合の「相当な理由」以上の根拠が求められます。「緊急性」については、裁判官の逮捕状を求めることができないほど急を要する状況である必要があります。
刑事訴訟法 210条
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
緊急逮捕をすることができる場合の具体例
緊急逮捕を行うことができるのは、具体的にはどのような場合なのでしょうか。
たとえば、警察官Aがパトロール中に、連続殺人で指名手配中のXを見つけたとします。警察官Aは当然逮捕状をもっていませんし、(準)現行犯逮捕をすることもできません。
しかし、この状況で裁判官に逮捕状を請求していたのでは、指名手配犯のXが逃走してしまう可能性は高いです。このような場合に、警察官Aは指名手配犯Xのことを緊急逮捕することができます。
エル