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虚偽告訴罪とは
虚偽告訴罪とは、人に刑事処分を受けさせる目的で、嘘の告訴・告発をした場合に成立する犯罪です。刑罰は3月以上10年以下の懲役となっており、懲役刑のみです。
以前、虚偽告訴罪は誣告罪と呼ばれていましたが、平成7年の刑法改正で現在の罪名へと変更されました。
刑法172条
人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、3月以上10年以下の懲役に処する。
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痴漢のでっち上げ
虚偽の告訴がされる事例として多いのは、慰謝料を取る目的で、痴漢の犯人をでっち上げるケースです。
満員電車内で女性が、何もしていないターゲットの男性を捕まえて「痴漢です!」と申告した場合でも、駅員室へ連れられてしまうと、ほとんどの場合には警察へと連行されて痴漢として扱われてしまいます。
ただし、女性が痴漢行為をされており、単に犯人の近くにいた人を痴漢と間違えて捕まえてしまった場合には、虚偽告訴罪は成立しません。
社会生活でのトラブルへの報復
普段の生活でトラブルになり、恨みを持つ相手への嫌がらせとして、「告訴をして警察に逮捕させよう」「捜査をさせて職場にいられないようにしてやろう」などと考えて、告訴をするようなケースも考えられます。
虚偽告訴罪の構成要件とは
虚偽告訴罪が成立するためには、いくつかの条件を満たさなければなりません。このような、犯罪が成立するための要件を、構成要件と呼びます。
ここでは、虚偽告訴罪の3つの構成要件について解説します。
①人に刑事処分を受けさせる目的
虚偽の告訴・告発をした場合には、そもそも告訴・告発が、「捜査機関に犯罪事実の申告と、加害者の処罰を求める意思表示」ですので、告訴・告発を行う相手に対して刑事処分を受けさせる目的があると考えられます。
そのため、「人に刑事処分を受けさせる目的」についてはあまり問題になりません。
②客観的事実に反する申告
「客観的事実に反する申告」であることも、虚偽告訴罪が成立するための客観的要件になります。告訴・告発の内容が、告訴人・告発人の主観的認識と違ってているということだけでは虚偽告訴罪は成立せず、客観的事実に反しているときに虚偽告訴罪となります。
たとえば、XがAの車を壊したとします。AはBが犯人だと考えていますが、Aは普段から仲が悪いXへの嫌がらせで、Xを犯人として告訴しました。このような場合でも、真犯人はXですので、Aの行為に虚偽告訴罪は成立しないことになります。
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③虚偽の告訴・告発をすることについての故意
「虚偽の告訴・告発をすることについての故意」がなければ虚偽告訴罪は成立しません。虚偽告訴罪が成立するかどうかで、一番問題となるのがこの故意という点になります。
たとえば、AがBが犯人だと思いBを告訴したものの、実際の犯人はXだった場合には、Aに虚偽告訴の故意がないので、虚偽告訴罪は成立しません。しかし、本当の犯人がXだと知っていた場合には、虚偽告訴罪が成立することになります。
昭和28年1月23日の最高裁の判例では、「虚偽告訴罪が成立するためには、その主観的要件として、申告者がその申告した事実について、それが虚偽であることを確定的に認識していたことを必要とするものではなく、未必の故意があれば足りる」とされています。
未必の故意とは、「〇〇となるかもしれないけど、まあいいか」というレベルの故意です。つまり、告訴した相手は、もしかしたら犯人かもしれないし、犯人でないかもしれないが、まあいいかと考えて告訴をする場合に、未必の故意があると言えます。
告訴・告発は、相手に刑事処罰を受けさせるきっかけとなり、捜査がされると相当の負担を負わせることになります。犯人が不明の場合であっても、告訴・告発が行えますので、「もしかしたら犯人かもしれないし、犯人でないかもしれない」というような状態で、犯人を指名しての告訴はしてはいけません。
虚偽告訴罪の構成要件
- 人に刑事処分を受けさせる目的
- 客観的事実に反する申告
- 虚偽の告訴・告発をすることについての故意
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虚偽告訴罪の刑罰は?
虚偽告訴罪は起訴猶予となることも多いですが、「3月以上10年以下の懲役」と定められています。
また、刑法173条には「自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる」とされており、裁判が確定する前などに、告訴が虚偽だったということを自白すると刑の減軽、免除がなされる可能性はあります。
刑法173条
前条の罪を犯した者が、その申告をした事件について、その裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。
刑事責任とは別で、拘束期間の長さや社会的地位等への影響によっては、民事上の責任として損害賠償請求をすることもできます。
虚偽告訴罪の刑罰
- 3か月以上、10年以下の懲役
- 自白すると、刑を減軽・免除の可能性がある
虚偽告訴罪が成立した裁判例
新婚のXは、夫の自分への気持ちを確かめるために、強制わいせつの被害を受けたと嘘をつきました。夫は、これを本気にして警察に届け出ると言い出し、Aも今さら本当のことを言えなくなってしまい、たまたま仕事のことで夫を訪ねてきたAを犯人に仕立てて警察に被害届を出しました。
その後の、警察官による事情聴取に対しても嘘の証言をして、強制わいせつ罪でAを虚偽告訴しました。
虚偽の告訴をされた被害者Aは、強制わいせつ罪により逮捕、勾留され、嫌疑不十分により釈放されるまで、19日間も身柄を拘束されてしまいました。それによって、名誉や社会的信用が傷つけられ、経営していた内装資材販売会社の事業を維持できなくなることにもなってしまいました。
判決では、与えた損害・影響の大きさなどから、執行猶予なしの懲役1年という刑が言い渡されました。(平成16年1月29日 仙台高裁)
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