緊急避難とは?

緊急避難

エル

緊急避難って聞いたことある?
正当防衛と似てたような…

リミナ

エル

そうそう!今回は「緊急避難」について解説するよ!

緊急避難とは?

緊急避難とは、自己または他人の生命、身体、自由、財産に対する、現在の危難を避けるためにやむを得ずにした行為で、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合のことをいいます。緊急避難と認められた場合には、違法性が阻却されることになります。

たとえば、道で犬に襲われたときに、犬から逃げるために他人の家の敷地内へ入った場合などは、緊急避難となります。

他人の家に入る行為は、通常であれば住居侵入罪となりますが、緊急避難と認められれば違法性が阻却され、犯罪行為として罰せられることはありません。

刑法37条
自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

刑法130条
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

緊急避難が成立するための条件は?

緊急避難が成立するためには、下記の4つの要件が必要になります。

  1. 現在の危難がある
  2. 危難を避けるためである
  3. やむを得ずにした行為である
  4. 法益の権衡が認められる

エル

要件は条件と同じような意味だよ!

現在の危難とは

「現在の危難」は、危難が近くに迫っている場合か、危難がすでに始まっている場合に認められます。なお、危難とは、生命、身体、自由、財産などの法益への侵害のことをいい、人の行為だけではなく、自然災害なども含まれます。

たとえば、殴られそうな場合や殴られている最中である場合には、「現在の危難」があるといえます。

危難をさけるためとは

危難をさけるためであると認められるには、避難の意思がある必要があります。

たとえば、緊急避難の名目で、のぞき目的で女子更衣室に侵入した場合には、当然ながら緊急避難は認められません。

やむを得ずにした行為とは

緊急避難において、その行為が危難を避けるための唯一の方法であり、他にとるべき手段がなかった場合に、やむを得ずにした行為であると認められます。これを、補充性といいます。

たとえば、犬に襲われた場合であっても、他人の家に入らなくても逃げることができる場合には、補充性はみたさないため、緊急避難とは認められません。

法益の権衡とは

法益の権衡が認められるには、危難の対象となっている法益が、犠牲となる法益の価値よりも大きい必要があります。条文では、「生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合」と表現されています。

つまり、自分の100円分の財産を守るために、他人の100万円分の財産を犠牲にした場合には、法益の権衡が認められません。

正当防衛より厳しいんだね

リミナ

エル

正当防衛との違いは下の記事で解説しているよ!
正当防衛と緊急避難正当防衛と緊急避難の違いとは?

過剰避難と誤想避難とは?

過剰避難

過剰避難とは、避難行為が補充性または法益の権衡の条件のみをみたしていない場合のことをいいます。

後ほど裁判例として紹介しますが、衝突を避けるために必要以上に他の車線にはみ出して、他の車両との事故を起こした場合などが、過剰避難の具体例です。

過剰避難となった場合には、刑の減軽、免除が任意的に行われることになります。

誤想避難

誤想防衛とは、実際には緊急避難の要件はみたしていないのに、みたしていると勘違いして、避難行為をしてしまった場合のことをいいます。

誤想避難が成立すると認められた場合には、故意がないと判断され、犯罪が成立しないことになります。

具体的に緊急避難になるかは、弁護士に相談するのが一番だよ!

覚せい剤使用が無罪となった判例

緊急避難が認められ、覚醒剤を使用した被告人が無罪となった判例を紹介します(平成24年12月18日 東京高裁)。

事件の概要

被告人Aは、平成24年1月9日に別件の傷害事件により逮捕され、留置中に警察官の求めに応じて尿を提出したところ、その尿から覚せい剤の成分であるフェニルメチルアミノプロパンが検出されました。

しかし、Aが覚せい剤を摂取したのは、覚せい剤を利用している人からけん銃を頭部に突き付けられ、覚せい剤の摂取を強要されるという状況でのことでした。

判決

覚せい剤の影響下にあった者からけん銃を頭部に突き付けられて、覚せい剤を使用することを強要されたため、被告人の生命・身体に対する危険の切迫度は大きかったといえます。

また、深夜で相手の所属する暴力団事務所の室内に二人しかいないという状況にあったことから、被告人が生命や身体に危害を加えられることなくその場を離れるためには、覚せい剤を使用する以外に、現実的な方法はなかったと考えられます。

また、Aが覚せい剤を使用したことにより生じた害が、避けようとした被告人の生命・身体に対する害の程度を超えないことも明らかですので、緊急避難に該当し、罪とならないとされました。

けん銃を突き付けられたら、仕方ないよね…

リミナ

交通事故の罪が緊急避難で免除された裁判例

過剰避難が認められ、交通事故を起こした被告人の罪が免除された判例を紹介します(平成21年1月13日 東京地裁)。

事件の概要

被告人Aは、片側3車線の道路で、トラックを時速約20~30kmで運転していました。

すると、進路前方の第1車両通行帯に停止して並んでいた数台の自動車の先頭に近い位置にいた車が、突然、第2車両通行帯の中央付近まで出てきました。

この車との衝突を回避するために、右にハンドルを切って進路を変更しました。

しかし、後ろから第3車両通行帯のほぼ中央を走ってきた、Bが運転するバイクの進路前方を塞ぎ、Bは衝突を避けるための急制動で路上に転倒し、全治約6週間を要する右第5中手骨骨折などの傷害を負わせる結果となりました。

判決

Aが、右にハンドルを切って第3車両通行帯に進出した行為は、衝突による身体傷害という現在の危難を避けるための行為であったが、Bの進行を妨げない範囲で第3車両通行帯に進出することも可能であったのに、衝突の回避に必要な程度を超えて、第3車両通行帯に大きく進出していました。

そのため、Aの行為は、「やむを得ずにした行為」であったとは認められませんでした。

ただし、必要な程度を超えて進出した行為であっても、避難のための行為でなくなるわけではありませんので、衝突の回避に必要な程度を超えたという過失はあるものの、過剰避難に該当するとされました。

Aの過失が悪質なものではなく、人身損害や物的損害の賠償はされており、示談も成立していることなどから、刑は免除されました(求刑は罰金20万円)。

エル

交通事故では過剰防衛となるケースが多いよ