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罰金・科料・過料の違いとは?
罰金、科料、そして過料それぞれの違いをまとめると、まず過料については他の罰則と比べて刑罰でないという大きな違いがあります。一般に犯罪と呼ばれる行為をした場合ではなく、行政上の義務違反などを犯した場合などに適用されます。
罰金と科料についてはどちらも刑罰の一種ですが、金額の範囲が異なります。1000円以上1万円未満の範囲は科料、1万円以上では罰金と区別されます。過料については、金額の制限は特にありません。
前科とは刑罰の履歴を表すもので、市区町村が作成する犯罪者名簿に載るかどうかで判断されることが多いです。この基準で判断をすると、罰金の場合には犯罪者名簿に載るため前科が付き、科料の場合には犯罪人名簿に記載されることはないため前科は付かない、ということになります。また、刑罰ではない過料については前科が付くことはありません。
罰金、科料、過料の違いを表にまとめると、下の表のようになります。
金額 | 前科 | |
罰金 | 1万円以上 | 付く |
科料 | 1000円以上1万円未満 | 付かない |
過料 | 制限なし | 付かない |
ここからは、罰金・科料・過料の違いと前科が付くか、についてさらに詳しく解説します。
罰金・科料・過料とは?
法律や条例で定められている禁止行為をした場合、金銭を支払わなければならないことがあり、「罰金」「科料」「過料」という3種類があります。いずれも金銭を徴収する処罰のことですが、それぞれに定義が異なり、状況に応じて使い分けられています。
刑法で定められている刑罰の種類については、下の関連記事で紹介しています。
刑にはどのような種類がある?罰金
「罰金」は刑罰の一種で、刑法15条に罰金についての条文があります。
刑法15条
罰金は、1万円以上とする。ただし、これを減軽する場合においては、1万円未満に下げることができる。
罰金は、窃盗罪や傷害罪、公務執行妨害など、犯罪行為に幅広く適用されます。たとえば、窃盗罪(刑法235条)では、「50万円以下の罰金」となっています。
刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
罰金とは、1万円以上の金銭が徴収されるという刑罰ですので、科料となる行為よりも悪質な行為の場合に科せられることが多い傾向にあります。しかし、ただし書きにあるように、減軽されることによって科料で定められている金額の範囲になってくるということもあります。
平成29会計年度における罰金刑執行総件数は約25万件で、金額は約540億円にものぼります。罰金の場合には科料とは異なり上限が明確にされていないため、犯した行為の内容によってかなりの幅が生じます。数万円の罰金から、数千万円の罰金まで、広く罰金制度によってカバーすることが可能となっています。
科料
「科料」も罰金と同様に、刑罰の一種で、刑法17条に科料についての条文があります。
刑法17条
科料は、千円以上1万円未満とする。
科料とは、1000円以上1万円未満が徴収されることになる刑罰です。これが科せられるのは比較的軽微な犯罪行為をした場合です。
たとえば、過失傷害(刑法209条)は「30万円以下の罰金又は科料」となっています。
刑法209条
過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。
また、軽犯罪法に違反する行為をすると、拘留または科料に処せられることになります。たとえば、盗撮行為や刃物等を携帯したり、公共の場で暴言を吐いたりすると軽犯罪法違反となり、科料を支払わなければならなくなる可能性があります。
ちなみに、これらの行為は程度によって別の犯罪行為にあたることもあります。盗撮であれば、その撮影の場所などによっては、迷惑防止条例違反に該当することがあり、暴言の内容によっては脅迫罪にあたる可能性なども出てきます。そうなれば、科料では済まない可能性も十分にあります。
軽犯罪法1条
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
政府の統計報告によると、平成29会計年度における科料刑執行総件数は1935件とされています。近年の執行件数は減少傾向にありますが、毎年数千件執行されているのが現状です。
科料によって年間で徴収された金額は約1400万円です。単純計算すると、科料に科せられると平均で約7,000円の徴収をされるということになります。ただし、現実に科料が科せられる場合には、その時の状況や自分の行った行為などが加味されて決定されることになります。
過料
「過料」は、これまでに紹介した罰金や科料とは異なり、刑法に条文がある罰ではありません。
過料は行政罰にあたり、さらにその行政罰の中でも秩序罰に分類されます。条例違反や行政上の義務違反を犯した場合など、行政の秩序を乱した場合に科されます。
過料は条例違反に対して科すケースが多く、同じ「過料」であっても地域によって科される条件やその金額は異なります。代表的なものでは、路上喫煙についての条例があります。地域性を持たせてつつ、刑法上の刑罰と区別することで、各地域の情勢に会った対策をしていくことが可能となっています。
たとえば、千代田区では、条例に基づいて喫煙違反者に対し過料2000円を徴収しています。年度によって件数にばらつきはありますが、下の表のように、年間で7000件程の過料処分が行われています。1件2000円の過料ですので、千代田区の路上喫煙だけで1400万円もの過料の支払いがされていることになります。
また、執行罰という行政上の強制執行があり、この執行罰においても過料が科されることとされています。ただし、執行罰は義務を怠っている者に対し、義務の履行を求めることが目的となっており、過料を予告し心理的圧迫を与えるという特殊性があります。そのため、必ずしも過料の支払いをするとは限りません。なお、執行罰はこれは現在では砂防法36条に残っているだけであり、例外的なものとなっています。
罰金や科料については法律で金額が定められていましたが、過料の場合には金額の上限、下限は定められていません。先程の路上喫煙に対する過料のように2000円程度の場合もあれば、会社法976条違反のように100万円以下と大きな金額になる場合もあります。ちなみに、会社法976条は、登記の義務を怠った場合などに適用されます。
会社法976条
発起人、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取締役、会計参与若しくはその職務を行うべき社員、監査役、執行役、会計監査人若しくはその職務を行うべき社員、清算人、清算人代理、持分会社の業務を執行する社員、民事保全法第56条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役、執行役、清算人若しくは持分会社の業務を執行する社員の職務を代行する者、第960条第1項第5号に規定する一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役若しくは代表執行役の職務を行うべき者、同条第2項第3号に規定する一時清算人若しくは代表清算人の職務を行うべき者、第967条第1項第3号に規定する一時会計監査人の職務を行うべき者、検査役、監督委員、調査委員、株主名簿管理人、社債原簿管理人、社債管理者、事務を承継する社債管理者、代表社債権者、決議執行者、外国会社の日本における代表者又は支配人は、次のいずれかに該当する場合には、100万円以下の過料に処する。ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。
一 この法律の規定による登記をすることを怠ったとき。
罰金・科料・過料で前科が付く?
前科の定義は実はあいまいなもので、法律で「前科」というものは定義されていません。そのため、どの場合に前科という経歴を持つことになるのか明確にはされていません。
一般的には、地検からの通知に基づき、市区町村などの単位で作成される犯罪人名簿に載ることで、「前科が付く」と言われています。ここでは、犯罪人名簿に載ることになるかどうかを基準に、前科が付くかどうかについての解説をします。
罰金では前科がつく
罰金の場合には、金銭を支払うだけということもあって、前科にはならないのではないかと考える方もいらっしゃいます。
しかし、罰金であっても有罪判決が下りますので、犯罪人名簿に載ります。そのため、罰金となった場合には前科が付くことになります。
科料では前科はつかない
科料でも、罰金と同様に有罪となります。そうすると、罰金の場合と同じく前科が付くようにも思われます。しかし、科料では犯罪者名簿に載ることはありませんので、犯罪人名簿に記載されない科料は前科が付かないと考えることができます。
ただし広い意味での前科は、刑罰を受けた経歴のことを指すため、科料であっても前科が付くと考えることもできます。また、検察庁で作成される前科調書でも科料は記録され、再犯に対する刑罰の加重がされることも考えられます。そういった面からみると、科料も「前科が付く」と考えることもできます。
過料では前科はつかない
過料については前科が付くことはありません。前科というものは、刑罰に処された場合のことを指しますので、刑罰ではない過料で前科が付くということはないのです。
そのため、路上喫煙などで過料を支払うことになった場合であっても、前科がつくということにはなりません。
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金銭を徴収する罰についてのルール
日本の法律では、人が人に罰を与える場合には相当の理由が求められます。罰金・科料・過料のように、罰の内容が金銭を徴収するような金銭罰である場合でも同様です。そこで、罰則を制定する場合や実際に処罰する場合におけるルールが色々と定められています。
原則、故意でなければ処罰されない
「故意犯処罰の原則」というものがあります。この原則では、意図して犯罪行為をした者に限って処罰すべきであるとされています。これは、刑法38条で定められています。
刑法38条1項
罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
しかし、意図せず犯してしまった行為についても処罰されるケースも多くあります。しかし、刑法38条1項には「ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない」と書かれており、故意犯処罰の原則における例外が定められています。つまり、原則は意図しなかった、故意に行っていない行為については処罰しないとしているものの、「過失により犯してしまった場合に処罰する」と規定を設ければ罰しても許されるということになります。
たとえば、傷害罪については刑法第204条に規定がありますが、これとは別に第209条で過失傷害についての規定が設けられています。そして罰則規定は、基本的に同じ行為であれば故意犯のほうが罪は重くなります。
実際、故意に行われた傷害行為は傷害罪となり、15年以下の懲役または50万円以下の罰金に処される可能性があるのに対し、故意ではない過失傷害罪では30万円以下の罰金または科料となっています。
刑法204条(傷害罪)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。刑法209条(過失傷害罪)
過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。
ちなみに、故意とは「未必の故意」を含み、怪我を負わせるかもしれないが構わない、と思いながらした行為により本当に怪我を負わせてしまうと、故意があったと認定され傷害罪が成立します。これに対し、怪我を負わせるかもしれないがそんなことは起こらないだろう、と考え結果的に怪我を負わせてしまった場合には「認識ある過失」となり、過失傷害の罪にとどまります。
処罰も罰金ではなく科料で済む可能性が出てくるため、犯罪人名簿への記載を前科と捉えるのであれば故意の判定が重要な関心事となってくるでしょう。ただし、暴行をした場合ですと、傷害の故意まではなくとも傷害罪が適用されるというケースが多いです。
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条例で定める場合は金額の制限がある
地方公共団体の運営方法などについては地方自治法でされています。そして地方自治法では、条例で定めることのできる罰則についても規定しています。
地方自治法14条3項
普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、2年以下の懲役若しくは禁錮、100万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。
条例を制定するのは、刑法で新しい条文を制定するよりも容易であるため、定めることのできる罰則に制限がかけられています。科料はそもそも1000円以上1万円以下という定義のためあまり影響はありませんが、罰金については100万円までしか条例で定めることはできません。さらに、過料についても5万円が限度とされています。
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