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告発義務とは?
告発は、犯人や告訴権者以外の第三者であれば誰でもすることができます。ちなみに、犯人の場合は自首となり、告訴権者は告訴をすることになります。
告訴・告発、告発権者については、下の関連記事で詳しく説明しています。
告訴・告発とは ~告訴と告発の違いは?誰ができる?刑事訴訟法239条1項
何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。
一般人の場合には、告発が義務とされることはありません。しかし、公務員については、「職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない」と定められており、告発義務が課されています。
刑事訴訟法239条2項
官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。
告発義務の趣旨
公務員の告発義務が定められた刑事訴訟法239条2項の趣旨はどのようなものでしょうか。
行政が適正に行われるためには、各種行政機関が相互に協力して一体となって行政機能を発揮するのが重要になります。
そこで、その運営について協力義務を課すとともに、告発に裏付けられた行政運営を行うことにより、犯罪の捜査や公訴権の行使といった刑事的な行政についても適正な運用をし、その機能がより効果的に発揮されるようにするために、公務員の告発義務が定められています。
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告発義務違反した場合の罰則
この規定を訓示規定と解釈している裁判例も一部ありますが、一般的には強行規定であるとされています。
刑事訴訟法239条2項には、罰則は設けられていませんが、告発義務を怠ることは国家公務員法82条1項2号、地方公務員法29条1項2号の公務員の懲戒事由となると考えられています。
国家公務員法82条1項2号
職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
地方公務員法29条1項2号
職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
告発義務についての判例は?
判例では、「登記官は、偽造された登記済証を発見した場合、その背後にあると思料される有印公文書偽造・同行使、有印私文書偽造・同行使等の犯罪について、これを告発し、捜査機関による犯罪の究明を求めることが義務付けられている」と述べています。
このように判例では、告発は公務員の法的義務であるとされています。
刑事訴訟法239条2項は、「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」と定め、登記官は、偽造された登記済証を発見した場合、その背後にあると思料される有印公文書偽造・同行使、有印私文書偽造・同行使等の犯罪について、これを告発し、捜査機関による犯罪の究明を求めることが義務付けられているのであるから、申請人が当該犯罪に関与していないことが明らかであり、かつ、提出された登記済証が偽造されたものであることを速やかに申請人に知らせなければ申請人に多大な損害が発生することが明らかであるとの特段の事情がない限り、申請人又は代理人に対する告知よりも刑事上の告発義務の十分な履行を優先させる義務があるというべきである。したがって、登記申請書類の中に偽造文書が含まれていることを発見した場合、登記官は、特段の事情のない限り、法務省ないし法務局の内部的な手続を経た上で、所轄警察署への告発手続を行うとともに、当該犯罪事実の重要な証拠となる偽造書類の押収手続に備えて、これを行う捜査機関と連携をとりながら、却下決定までの処理を行うことになる。
平成14年12月10日 東京高裁
告訴義務を免れる場合とは?
告訴義務は法的義務ではありますが、裁量の余地を認めないものではありません。
そのため、場合によっては告訴義務を免れることもあります。ここでは、どのような場合に告訴義務を免れるかを紹介します。
重大な支障を生じる場合
告発義務は行政目的の適正・円滑な達成のために設けられていますが、告発をすることで行政目的の達成の障害になってしまうような場合には、その行政機関の判断で告発を控えることも許されることになります。
より具体的には、告発することによってもたらされる不利益が、その犯罪を告発せず訴追されないことによって生じる不利益よりも大きいような場合には、告訴義務を免れることになります。
しかし、このことは個々の公務員の判断で告発を怠ることを許すものではなく、上長への報告などのような内部的な手続きは少なくとも必要と考えられます。
職務上知り得た守秘義務がある情報
公務員には守秘義務がありますが、どのような内容でも告発義務があるのでしょうか?
国家公務員法100条1項
職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。
刑事訴訟法103条と144条との均衡を考慮して、公務員が職務上知り得た秘密に属する事項については、告発義務は免れるものと解されます。
刑事訴訟法103条
公務員又は公務員であつた者が保管し、又は所持する物について、本人又は当該公務所から職務上の秘密に関するものであることを申し立てたときは当該監督官庁の承諾がなければ、押収をすることはできない。但し、当該監督官庁は、国の重大な利益を害する場合を除いては、承諾を拒むことができない。刑事訴訟法144条
公務員又は公務員であつた者が知り得た事実について、本人又は当該公務所から職務上の秘密に関するものであることを申し立てたときは、当該監督官庁の承諾がなければ証人としてこれを尋問することはできない。但し、当該監督官庁は、国の重大な利益を害する場合を除いては、承諾を拒むことができない。
職務と関係ない場合
告発義務が生じるのは、「職務を行うことにより」犯罪があると思料した場合とされていますので、職務と全く関係なくたまたま犯罪があることを知った場合には、公務員の告発義務は生じません。
犯罪の捜査や公訴権の行使といった刑事に関する行政作用の適正な運用のために、公務員に協力義務を課しているという趣旨からすれば、告発義務が生じる範囲は狭く解すべきではありません。
そのため、犯罪の発見が何かしら職務内容に関係する場合には、告発義務を負うものと解するべきでしょう。
裁判官にも告訴義務はある
裁判官も公務員であるから、裁判などの手続き中に犯罪を発見した場合に、告発義務を負いますが、公判審理中の証人の偽証については告発義務を負わないとする説もあります。
しかし、偽証を知りながら、これを告発せずに手続を進めることは裁判所の公正を害するとも思えますので、公判審理中の証人の偽証についても告発義務を負うと考えられます。
告発義務を免れる場合
- 告発をすることで行政目的の達成の障害になってしまう場合
- 公務員が職務上知り得た秘密に属する事項
- 職務と全く関係なくたまたま犯罪があることを知った場合
告発した公務員は保護される?
公務員が告発などをした場合には、公益通報者保護法ではなく国家公務員法の規定が適用されますが、免職など不利益な取扱いがされることのないよう、規定を適用しなければならないと定められています。
公益通報者保護法7条
(略)一般職の国家公務員等の任命権者その他の第2条第1項第1号に掲げる事業者は、第3条各号に定める公益通報をしたことを理由として一般職の国家公務員等に対して免職その他不利益な取扱いがされることのないよう、これらの法律の規定を適用しなければならない。
公務員が告発すべきか迷っている場合には、告発をいきなりすることはリスクが大きいですので、告発する必要があるかなども含めて、弁護士などの専門家に一度相談することをおすすめします。
告訴状・告発状の手数料と報酬・料金の相場は?