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正当防衛とは?
正当防衛とは、「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為」のことをいい、正当防衛と認められる場合には犯罪は成立せず、起訴されたとしても無罪となります。
たとえば、突然見知らぬ人に襲われて、サバイバルナイフで刺されそうになったときに、自分の身を守るために、やむを得ず相手を殴った場合は正当防衛になります。相手を殴る行為は、傷害罪や暴行罪が成立する可能性のある行為ですが、正当防衛となり犯罪は成立しません。
傷害罪と暴行罪の違いとは?ただし、防衛の目的であったとしても、素手の相手に対して、武器を使うなどした場合には、過剰防衛となる可能性もあります。
過剰防衛の場合には犯罪が成立しますので、無罪とはならず、事情に応じて刑罰が軽減・免除されることになります。
刑法36条
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
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正当防衛が成立する条件とは?
正当防衛が成立するためには、下記の4つの要件をみたしていなければなりません。
- 侵害に急迫性がある
- 侵害が不正である
- 自己や他人の権利を防衛するためである
- やむを得ずにした行為である
それぞれ、どのような条件であるかについて説明していきます。
急迫性がある侵害とは
「急迫不正の侵害」といえるためには、急迫性があることと、不正であることの2つの条件をみたしていなければなりません。まずは、急迫性について説明します。
急迫性とは、侵害が近くに迫っている場合か、侵害がすでに始まっている場合に認められます。たとえば、殴られそうな場合や殴られている最中である場合には、急迫性があることになります。
また、過去や未来の侵害に対して、急迫性は認められません。たとえば、サバイバルナイフを持っている犯人に襲われた場合に、その凶器を奪い取ることができた場合には、その時点で急迫性はなくなったと判断されます。もちろん、凶器が無くなった後も殴りかかってくるような場合には、急迫性があるといえます。
未来の侵害には、急迫性は認められないと説明しましたが、侵害を予期していた場合でも、急迫性は失われません。たとえば、明日殴られそうだと予想しており、実際に殴りかかられた場合には、急迫性が認められます。
不正な侵害とは
「不正」とは、違法であることをいいます。たとえば、Aが駅のホームでXにいきなりナイフで刺された場合には、Xの行為は傷害罪にあたる違法な行為となり、これは不正な侵害といえます。
もしも、Xに刺されたAが、自分の身を守るためにXの事を殴ったとします。このAの行為は不正の侵害といえるでしょうか。
この場合には、Aの行為は正当防衛となり違法性はないことになりますので、不正の侵害とはいえません。そのため、さらにXが殴り返した場合には、当然正当防衛は成立しません。
自己や他人の権利を防衛するためとは
自己や他人の「権利」とは、法益のことをいいます。ここでの法益とは、主に身体・生命・財産・自由などのことをいいます。ただし、このような個人的法益だけではなく、社会的法益、国家的法益も含まれます。
「防衛するため」であると認められるためには、反撃した人に防衛の意思がある必要があります。反撃に乗じて正当防衛という名目で、相手を攻撃しようと考えたような場合には、正当防衛とは認められません。
また、急迫不正の侵害に対する反撃時に、防衛の意思と攻撃の意思が両方ともある場合はどうなるでしょうか。
たとえば、いきなり殴りかかられた場合、もう殴られないためでけではなく、相手に対する怒りから、反撃をすることも考えられます。このように防衛の意思と攻撃の意思がどちらもある場合であっても、「防衛するため」と認められます。
やむを得ずにした行為とは
「やむを得ずにした行為」と認められるためには、防衛行為に必要性と相当性があることが求められます。
必要性とは、防衛行為をする必要があるかどうかで、緊急避難のように他にとるべき手段がないことまでは求められません。
相当性とは、防衛行為が自己や他人の利益を防衛するために、必要最小程度であることを意味します。たとえば、素手で襲いかかってきた相手に対して、日本刀で反撃した場合などは相当性がないと判断される可能性が高いです。
このように、相当性は武器など攻撃の手段が対等かどうかで判断されるケースが多いです。
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過剰防衛と誤想防衛とは?
正当防衛に近いものの厳密には条件を満たしていない場合、過剰防衛・誤想防衛として刑罰が軽減されたり、免除されたりすることがあります。
過剰防衛とは
過剰防衛とは、正当防衛が成立する条件のうち、防衛行為の相当性のみみたしていない、過剰な反撃行為のことをいいます。
過剰防衛の場合には、正当防衛が成立していませんので、違法な行為にはなります。ただし、刑罰に関しては、軽減や免除される場合が多くなります。
過剰防衛には、量的過剰と質的過剰があります。量的過剰の例としては、ナイフで攻撃していた相手からナイフを奪い取り、相手が逃げていた場合に、追いかけて殴りつけるような場合などが考えられます。
質的過剰の例としては、素手で襲いかかってきた相手に、拳銃で反撃した場合などが考えられます。
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誤想防衛とは
誤想防衛とは、実際には正当防衛の要件はみたしていないのに、みたしていると勘違いして、反撃行為をしてしまった場合のことをいいます。誤想防衛の場合には、故意がないと判断され、犯罪が成立しないことになります。
たとえば、暗い公園を歩いていたAに向かって、突然誰かが走ってきてポケットから光る物を出しました。Aはナイフだと思い、身を守るため持っていたハンドバックで顔面を殴りつけました。
しかし、実際には走ってきたのは、さっきまでAがいたカフェの店員でポケットから出したのは、忘れ物のスマートフォンでした。
この場合には、正当防衛の条件を実際にはみたしていないので、正当防衛は成立しませんが、Aに故意がないことから暴行罪は成立しないことになります。
正当防衛で無罪になった判例は?
正当防衛が認められ、被告人が無罪となった判例を紹介します(平成25年10月31日 横浜地裁)。
事件の内容
A、B、C、Dの4人は、酒に酔った状態で、午前7時ごろ、ビルの地下1階の飲食店に入店しました。Aたちは、店内で他の客を馬鹿にするなどのトラブルを起こし、店長から店を出るように言われ、店の外に出ました。
その後、店長と話すなどして再び店内に戻り、被告人からビールをおごってもらうなどしました。しかし、Aたちの態度は変わらず、再び店長からから店を出るように言われました。
ビルから出たところで、Cに殴りかかられた店長は、Cのことを殴り、さらにBとももみ合いとなりました。その後、Aが店長に殴りかかり、それに対して店長はAの顔面を殴打するなどの暴行をしました。
これによってAは、全治約1か月間を要する右前頭骨骨折、右眼窩骨折の傷害を負うこととなりました。
判決
Aが被告人に殴り掛かろうとしていたことから、急迫不正の侵害が存在し、Aへの暴行の前にBやCともみあいになるなどしていましたが、Aたちが酔ってトラブルを起こしたことが発端であることから、自招侵害や喧嘩闘争中のものとはいえないと判断されました。
また、Aは全治約1か月間を要する骨折の傷害を負っており、傷害結果は重いものでした。しかし、店長の暴行は素手による数発の殴打であって、連続した短時間内のものであることから、防衛行為の相当性を逸脱した過剰なものとまではいえないと判断され、正当防衛が成立し無罪となりました。
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